「スロット」(超掌編)

 絵柄がなかなか合わない。残業をせずに職場を出た僕は、ふらっとスロットへ立ち寄った。動体視力には自信がある。なんてったって僕は少年野球のエースだったから。けれど、どうにもうまくボタンと絵柄が合わない。仕事も遊びも思う通りに行かないということなのか。まったくもう、疲れてしまう。

 1時間粘ったが、降参。妻が待っている家へ帰ることにした。ゲームに勝っていれば、いい気分で土産の一つでも買ってやろうとおもったのだが・・・・・・。

 「おかえりなさい」と妻が迎えてくれた。「今日はハンバーグかい?」そういう匂いが玄関先まで漂っている。「いいえ、違うわ」「だったらなんだい」「秘密よ」どうやらその日は的外れが多いようだった。「今日はロールキャベツよ」「そうか、肉の匂いは当たったね」そうして僕らは舌鼓を打った。

 「ねえ、私のお腹を見て。何か思わない?」と彼女が言った。「もしかして」「そう」「男の子かな、女の子かな」「そんなのわからないわよ」僕らは新しい「家族」になるらしい。「キャッチボール、できるかなあ」と僕は今から、楽しみになった。「どっちでもできるでしょ。それよりパパ、お仕事頑張ってよね」すっかりママ気分の妻が言う。スロットのようにめまぐるしい日々がこれからやってくる。良いことや悪いこと、楽しいことや辛いことが待ち構えているのだろう。だけど僕はパパになる。生まれる子が男でも女でも、僕ら3人の笑顔が並ぶ家にしなければ、と拳を握った。

 

かけら花火

「それで、お前はカメラと被害者の所持品を盗んだことを認めるんだな?」

容疑者Xは黙って頷き、その罪を認めた。Xは目を見開いているがうつむいており、唇は何かを言いたげそうに動いている。

「何か言いたいことがあるんじゃないのか」私は語気を強めて問いただした。夏の夕陽が差し込む取調室に、私の声が響く。またしても無言で、Xは首を横に振った。

 

 その時、私は二日前に開かれた夏祭り会場で起きた事件の対応をしていた。花火大会の会場で若い女性のハンドバッグが盗まれた。置き引きだった。犯人は42歳の男性X。言葉数は少なく、通常のように私は、犯行動機から取り調べを始めた。

「なんだって女性の物を盗んだんだ。金か」すると、しばらく無言が続いてから「違います」とXは答えた。フゥーっと大きく息を吐き、彼は犯行動機を語り始めた。

 

「私には9歳になる息子が居ります。昨年の暮れからずっと、病気で入院しておりまして」そこで彼は口をつぐんだ。私は未婚なのでよく分からないのだが、子供というのは本当に愛おしい存在なのだろう。そうであれば尚更、親として恥ずかしくない行動を心がけるべきじゃないのだろうか。私は、Xが子持ちであることを知り、この男を情けなく思った。

 

「それと物盗りの間に何の関係あるんだ」と私は言い、Xはそれまでうつむいていた顔をあげた。「息子に見せてやりたかったんです。花火を」と言った、「本当なんです。信じてください」そう言った時、Xの喉元が上下し、拳が小刻みに震えているのを私は見逃さなかった。確かに、その動機は本当なのだろう。しかし、信じるも何も、他人の所有物を盗んだことが罪であることに変わりはない。その理由によって彼が無罪になるとも思えない。

 

「どうやって入院している息子に花火を見せるんだ?」と私は訊いた。Xは鼻で笑うように息を少し吐き、「カメラですよ。あの女の子は、荷物を地べたに置くまでずっと、空の方へレンズを向けていました。その写真を見せてやりたいなと思ったんですよ」

被害者の所持品には、一眼レフのカメラが含まれていた。「現像してみたら、笑ってしまいましたよ。だって、映っているのは真っ黒な空だけなんですから」私は呆れてしまい、黙って聞いていた。

「だから、息子にみせる花火が無くて、次の手を考えたんです」先ほどまでの俯き気味で緊張した顔とは打って変わり、Xは得意気に語る。「紙とペンを貸していただけますか」と言われ、私は仕方なく鉛筆とわら半紙を彼に手渡した。変なことをされては困るが、次の手というのに興味があった。

 

「この紙が写真です。これらをつなぎあわせます」頭の中の想像では、真っ黒な空が広がっていく。「その空に、絵具やスプレー等で絵を描いていくんですよ。女の子が写真を撮るように、絵に関して僕はヘタクソですが」と、Xはくつくつ笑いながら言う。

「ふざけるな!」私の手は机の堅いせいでじんじんと痛み始めた。同時に、頭の中では華々しく打ちあがる花火の絵が出来上がっていた。

 

 

その頃、私には交際して2年になる恋人が居て、ギクシャクしていた。彼女は、イラストレーターになる夢を抱いている。

夏祭り会場で告白をし、「付き合ってもいいよ」と言われた時のことをよく思い出す。好きな人に思いが届いたとき、それは天にも昇る心地で「た~まや~!」と叫びたくなったものだ。

それから私たちは、幾度もデートを重ね、同じ夜を過ごした。一つ一つの記憶が今、頭の中に広がった夜空に華々しく花火のように打ちあがって蘇る。

「私と仕事、どっちが大事なの?」と、言われるようになったのはつい最近のことで、まさか本当に、そんな台詞を言われるなんて考えたことも無かった。

「君のほうだ」今なら、そう言える。「ありがとう」とXに礼を言い、僕は取調室を飛び出した。勤務中だが、そんなことは関係ない。

楽しかった頃の思い出が花火になって打ちあがっていく。スターマインに菊と牡丹。それらは欠片になって、僕の身体に沈み込んでいく。頭上には陽が沈み切った空が広がっていた。

 

同棲している部屋に着くやいなや、私は彼女の腕を掴んだ。「え、なあに?」と戸惑う彼女を、外に連れ出した。夜風に乗った彼女の匂いは懐かしくさえ思えた。

「君のほうだ」と私は言った。「え、なあに?」と彼女は言う。「君のほうが大事。仕事よりも」と言うと、彼女は、何を今更言っているのよ、とでも言いたそうな顔をしていた。

「僕はこれからも君が描く絵を見続けたい。そして、一緒に思い出を描いていきたいんだ。だから、結婚しよう」言いきった勢いで彼女を抱きしめた。返事が無い。けれども声が微かに聞こえる。それは言葉にならず、僕の肩に雫となって降りてきた。

 

ヒュ~、パーン。と音が鳴る。どこかの家からか、子供の声で「た~まや~」と陽気に叫ぶ声が聞こえた。僕と彼女は共に空を見上げる。これからも思い出を描いていくために。

 

(了)

英文法総覧を読みはじめる

安井稔著『英文法総覧』(開拓社)を購入し、読みはじめました。

最近まで、澤井康祐氏の『一生モノの英文法COMPLETE』をテキストとして学習しておりましたが、ひとまずの区切りをつけました。

そのため次のステップとして選んだのが『英文法総覧』です。

購入に至るまで、様々なサイトやアマゾンのレビューを参照させていただきました。

この本に期待しているのは、学習参考書としての役割を果たすのはもちろんのこと、それと共に言語学的な視点からの知識を授けてくれるらしいという点です。

まだ、読み始めたばかりなので(本日時点で14ページまで)、これから様々な知識が紹介されることと思います。しっかりと読んで理解したいです。

 

今までは一ヶ月単位で、参考書の読破計画を立てていたのですが、仕事の都合やイレギュラーなことが度々起こるため思うとおりに進まず、自分を責めることがありました。今回からは、一週間単位での計画を立てて行くことで精神衛生上の問題を解決したいと思っています。ひとまず、6月25日(金)までに59ページ(第7章)を読み終えることを目標に設定しました。

仕事は、最近は去年に比べると早くあがることができるのですが、ジムに通いはじめたので時間を有意義に活用し、ますます英語にも力を注がねばと思った次第です。

 

それでは。    

 

風と少女

『風と少女』 ミチコ・ナリタ

 

風が鳴る

 

誰かが赤子を身ごもった夜

 

路地を一匹の風が歩いた

 

今ではもう

 

赤子の顔を知る者は誰も居ない

 

 

キンモクセイ薫る秋に

 

風は少女とすれ違った

 

名を聞く間もなく

最近の収穫(深井史郎『恐るるものへの風刺』)

 

 先日、有給をとって東京へ遠征した。

行先は神保町。目的は古書購入。この街は日本で最も古書が集まる地域で、ここに無ければ諦めようという思いで私は足を運んだ。

古書購入といっても、細かく言うと目的は二つに分かれていた。

一つ目は英文学関係の古書購入。友人(作家志望)が、彼のブログで紹介していたアメリカ詩の原文を見つけることだった。作者名や生没年はわかるが、まったくネットでは検索にひっかからない。友人に直接尋ねればいいだろう、と思われるかもしれないが、それができない。それが友達以上恋人未満の関係にある場合のプライドというものなのだ。

未訳の文芸作品を紹介するということは、大いに価値がある。そもそも、翻訳の使命とうのはそこにあると思うのだが、原著の紹介(作品の中身とはまた別の情報)をしてもらいたいという気持ちが訳者に対して湧いてくる。原文と訳文を見比べながら鑑賞できれば、作品に対する理解も深まるだろうし、何より翻訳者の実力を知ることができる。作品の中身さえ伝わればいいわけではないだろう。その作品を生んだ著者や成立年代背景、関連する情報を伝えて読者の視野を広げていく所までが翻訳者に求められるのではないかと、生意気ながら考えている。

自分が翻訳する場合は、ぜひとも作品のソフトとハードの両面を読者に提示して勝負したいと思う。

 

そして神保町に行った目的の二つ目というのが、音楽書の購入。この街には音楽書に関して抜群の品ぞろえを誇るK書店という本屋がある。そこに無ければ神保町で見つけるのは諦めることにしている。(といっても、今回は買いたい本を決めたうえで足を運んだわけではないが)今回もK書店に行き、棚とにらめっこをした結果一冊を購入。

深井史郎『恐るるものへの風刺-ある作曲家の発言』(音楽之友社)だった。

深井は戦前から戦後にかけて活躍した秋田出身の作曲家。メジャーなところで言えば「鳩の休日」という音楽の作曲を手掛けた。

彼は作曲家であると共に、文筆家であった。その活動の軌跡を本の中で垣間見ることができる。深井は同業者である他の作曲家に対して深い理解を示していた。

だからこそ文章で論じるのも達者であるということなのだろうが、関心したのがイタリアの作曲家アルフレッド・カゼッラに関する文章だった。詳しくは多くの方々にも実際に目を通していただきたいので書かないが、自身が作曲家であるからこそ書くことができるのだろうか、と到底私には論じることができない領域で考察をしていた。

なんとも読み応えのある本なので、繰り返し読んで深井の思考回路(というか文体)を吸収したいと思う。

そんなこんなで神保町探索はなかなか良い収穫を得て終わった。

腐女子の脳内に迫る(短絡版)

成田美智子の人文サークル「亀頭庵」の取り組み。その中核を成すのが、「性欲」に関する取組みです。自分のことはどうでもいいのですが、他人の性欲に尋常じゃない興味があります。できれば、他人のセックスをのぞき見したい。

今回は、先日のゲイビに続き、関連分野である(?)「腐女子」の皆さんに迫りたいと思います。

といっても、長く書きませんし考察ではありません。雑感と言ったほうが適切なことを箇条書きしていきます。

 

腐女子の皆さんを、ここでは「男性同士の恋愛、性交に対して興味を持ち、接する女性」と定義させていただきます。

 

その上で、雑感の箇条書き。

1:腐女子は大多数が異性愛者。(大多数、というのはそうではない方々もいらっしゃるだろうという、予測によるため)

2:腐女子は男性同士の恋愛の中で、自らの恋愛をも行う。BLコミックを読む方々がその最たるものではないかという予測。というか希望。複数の登場人物全てが、女性にとっての「恋愛対象」に成りうる。

物語の中で展開されるのは、男性同士の恋愛。しかし、読者(腐女子)は第三者として恋愛の様子を俯瞰しながら、自らの脳内で登場人物との恋愛を展開させることができる。

3:2のような、脳内恋愛によって腐女子は、BL作品の男性にとって唯一の「異性」となり、彼らを独り占めすることができる=性欲が満たされる。

 

4:3のような性欲を満たす行為の一環として、(あるいは脳内恋愛の延長として)

「マンズリ」(女性のオナニーの意)を実行する!!!!!!!!!!!!!

 

とても興味深いです。男性が、女性同士の恋愛を扱った作品を観賞する際にも同様のことが起きているのでしょうか。

 

以上、雑感でした。他人の性欲はおもしろい。自分のはどうでもいいけど。

 

英語の勉強をやり直す

 大学を卒業してから、2年が経過した。東京から田舎に戻った後の僕の頭の中には常に都会の喧騒が鳴り響き、心は毎晩のように都会の暮らしを懐かしんでいる。

 僕は地元の同級生たちに一年遅れて、大学に入学した。加えて志望大学には落ちた。いわゆる浪人生活というものを送り、その間は苦手科目の数学を克服すべく勉強したつもりだったのだけれど、それもかなわず、何もかもが中途半端だった。

 そんな僕を、高校時代から今に至るまで応援し続けてくれる恩人が居る。それは、高校3年間の面倒をみてくれた担任教師だ。彼は英語教師で、とても男らしい、僕にとっては憧れの人物だ。

 今思うと、なんでそうなったのかよくわからないのだが、僕が2年生の頃に、3年生と合同で英語のテストが行われた。結果として1位をとったのは3年生の先輩。しかもガリ勉だった。その人に負けたのが、悔しくて僕は、担任が別クラスで授業を終えて戻るところをつかまえた。その時、なんと言ったのかはわからない。「どうすればガリ勉に勝てるのか」、みたいな事を言った気がする。そして気が付いたら僕は彼に「弟子入り」していた。そこから、単なる「担任」と「教え子」ではなく「師匠」と「弟子」の関係になったのだった。

 それから師匠は僕に英文法を叩きこんだ。教材は桐原書店の『ネクステージ』だ。これは英文法問題に関して定評のある参考書である。事実、見開きで適切な解説と問題が収められているのだから使い勝手は良い。

 加えてリスニング対策と称して、ALTのアメリカ人教師の通訳代わりをしろ、という課題でドライブや校外で訓練をしたこともあった。その頃の僕は今とさほど変らない引っ込み思案で、この通訳訓練のようなものは長続きしなかった。「せっかく機会を与えてやっているのに、どうして言うとおりにやらないんだ」と、その時ばかりは師匠にコツンと頭を叩かれた記憶がある。(実際はもう一つ叩かれたことがあって、それは単なる笑い話というかじゃれあいなので割愛する)

 なにより師匠から教わったのは英作文だ。僕が書いた英作文に対して師匠が毎回、赤を入れる。単に英文法の指摘をするのにとどまらず、師匠の赤ペンには教訓が込められていた。特に今でも英語に向かう際、心に留めているのは「リフレーズする」という教訓だ。問題文の内容を噛み砕くというか、「その話はつまりどういうことか」と一歩踏み込んで考える必要がある、という事なのではないかと思う。f:id:keybeword:20170527223448j:image

 

 そうこうして、師匠からは英語のみならず、なんというか男としての生き様みたいなものまでを感じさせていただいたのだが、僕は成田美智子だなんて名前を名乗ったりして今日に至るまで全く男らしくない。おまけに学歴も低い。

 

 あの日々が過ぎさってだいぶ経ち、あれこれ思い出していると、どうやら僕は英語を勉強するのが楽しい、ということが分かった。加えて英語を勉強して、それを使ってみたいという欲望が湧いてきた。

 それは読む、書く、聞く、話すという4技能のことだ。読むのは英語の小説を読むこと。書くのは英語で論文や文芸作品を書くこと。聞く・話すは文字通りのこと。

 これらの目標を達成するためには、今までの勉強(のようなもの)では叶えることが難しい。なぜなら僕はその方法で「失敗」をしたからだ。

 師匠は僕に機会と指針を与えようとしてくださった。それを僕はモノにすることができなかった。師匠から離れてだいぶ時間が経過した今、僕は一人で英語の道を再出発する必要がある。

 

以前の記事で書いた澤井さんの本を基に、英文法を土台として定着させ、そこから読解や英作文の技能に磨きをかけていきたいと思う。

 これまでの英語学習には、資格取得(特に英検)の側面が強かった。けれど今はそういう次元じゃなく、広く文化としての英語、言語としての英語に僕は向き合いたい。

そうして先に書いたアウトプットの活動を展開していきたい。その時、言葉は未来をこじ開ける鍵としての役目を果たしてくれるだろう。