小説

「路地よりの断章」(超掌編)

その日も、風は海と陸の間を行き来していた。それが彼の仕事だった。生まれてこのかた一歩も故郷から出たことが無い彼は、時折、太陽の光が降り注ぐ路の端から端まで駆け抜けてみたいという思いを抱くことがあった。 けれどもそれ以上に今は、自分が生まれた…

「スロット」(超掌編)

絵柄がなかなか合わない。残業をせずに職場を出た僕は、ふらっとスロットへ立ち寄った。動体視力には自信がある。なんてったって僕は少年野球のエースだったから。けれど、どうにもうまくボタンと絵柄が合わない。仕事も遊びも思う通りに行かないということ…

影の断片

夜勤のアルバイトが終わりに近づくころ、僕は店内に差し込む朝陽と共に入店してくる客たちを相手にレジ打ちすることで精一杯だった。彼らはいつ見ても、生気のない顔をしていた。目はとろんとして、皆視点がどこにも定まっておらずうわついている。 僕はそん…