「スロット」(超掌編)

 絵柄がなかなか合わない。残業をせずに職場を出た僕は、ふらっとスロットへ立ち寄った。動体視力には自信がある。なんてったって僕は少年野球のエースだったから。けれど、どうにもうまくボタンと絵柄が合わない。仕事も遊びも思う通りに行かないということなのか。まったくもう、疲れてしまう。

 1時間粘ったが、降参。妻が待っている家へ帰ることにした。ゲームに勝っていれば、いい気分で土産の一つでも買ってやろうとおもったのだが・・・・・・。

 「おかえりなさい」と妻が迎えてくれた。「今日はハンバーグかい?」そういう匂いが玄関先まで漂っている。「いいえ、違うわ」「だったらなんだい」「秘密よ」どうやらその日は的外れが多いようだった。「今日はロールキャベツよ」「そうか、肉の匂いは当たったね」そうして僕らは舌鼓を打った。

 「ねえ、私のお腹を見て。何か思わない?」と彼女が言った。「もしかして」「そう」「男の子かな、女の子かな」「そんなのわからないわよ」僕らは新しい「家族」になるらしい。「キャッチボール、できるかなあ」と僕は今から、楽しみになった。「どっちでもできるでしょ。それよりパパ、お仕事頑張ってよね」すっかりママ気分の妻が言う。スロットのようにめまぐるしい日々がこれからやってくる。良いことや悪いこと、楽しいことや辛いことが待ち構えているのだろう。だけど僕はパパになる。生まれる子が男でも女でも、僕ら3人の笑顔が並ぶ家にしなければ、と拳を握った。

 

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